2025年10月24日(金)にConnect for oita ventures 交流会イベントVol.21を開催いたしました。

TALK EVENT

人口減少や円安、インフレなど、これまでの前提が大きく変化するなかで、地域経済はどのような方向へ進むべきか。

10月24日に大分で開催された「Connect」では、日本銀行 大分支店長の安德久仁理(あんとく くにまさ)氏をゲストに迎え、「一緒に考えたい日本経済の『大局』」をテーマにトークセッションが行われました。

これまで起業家や経営者を中心に多彩なゲストを迎えてきたConnectですが、今回は金融・経済というマクロな観点から地域の今を見つめ直す機会となりました。

イベントレポート

安德さんは冒頭、人口減少やインフレといった経済環境の変化に触れながら、「人口減少や物価上昇など、社会の前提が変わりつつある中で、どのように対応し、どう未来につなげていくかが問われています」と話しました。

社会の構造が変わるなかで、それを課題としてだけでなく、新しい発想を生み出すきっかけとして捉える視点が求められています。
変化を前提に、暮らしや事業の持続性をどのように確保していくか。
地域が直面する課題を冷静に見つめ、柔軟に設計していくことの大切さが語られました。


見方を変えることで、広がる世界と地域の可能性

安德さんは、経済の考え方を伝える中で、世界地図を使って「視点を変えることの大切さ」を説明しました。
「日本を中心にした地図では、世界は“日本から見たかたち”で描かれています。
けれど、アメリカを中心にすれば日本は太平洋の向こう側に、ヨーロッパを中心にすればアメリカがその中間に位置します」。
同じ世界でも、どこを基点に見るかによって、見える構図は大きく変わります。

この例を通して、見方を変えることで世界の捉え方そのものが変わると語りました。 さらに視点を国内に置き換え、「四国や中国地方から九州を眺めると、大分は“端”ではなく、瀬戸内に正面で向き合う場所にある」と話しました。
視点を変えることで見えてくるのは、“周縁”ではなく“接点”としての大分の姿です。
地域の立ち位置をどう見るかー。その考え方が、新しい可能性を考える出発点になると述べました。

暮らしの延長線上にある経済設計

話題は、交通やエネルギーなど、日常に密接に関わるテーマへと広がりました。
「人には移動する権利があります。車を手放しても、病院や学校に行ける社会をつくることが大切です」。人口減少社会においては、交通インフラをどう再設計するかが、地域の持続性を左右するといいます。

さらに、大分が持つ地熱や太陽光といった自然資源にも言及しました。「域内で使う電力の半分を地元でまかなえる可能性がある」とし、 再生可能エネルギーの活用を、経済の効率化だけでなく、地域の自立を支える仕組みとして位置づけました。

交通やエネルギーといった生活に直結する課題のなかにこそ、経済の新しい形を見いだすヒントがある―。
暮らしの延長線上で経済を考える視点が、地域の未来を設計する出発点になるとお話しされました。

「価格が動く」社会への転換

安德さんは、長く続いたデフレの影響について「価格が動かなかったから、経済が縮んだ」と述べました。
そのうえで、カレーの価格を例に、物価高をどう受け止めるかを説明しました。
「かつて500円だったカレーが700円になっても、材料費や人件費を考えれば自然なことです。それでも“高くなった”と感じてしまうのは、価格が動かない状態に慣れてしまったからです」。

“値上げ=悪”という固定観念を改め、価値に見合う価格をつけながら賃金を上げていくこと。
価格が適正に動くことで、生産者やサービス提供者の努力が正当に評価され、
その循環が地域経済の健全な仕組みづくりにつながると語りました。

地域の挑戦を支える“経済の土台”をつくる

安德さんは、地域の企業や起業家が持続的に発展していくためには、
「経済の基盤を支える仕組み」を整えることが欠かせないと話しました。
デジタル化やデータ活用によって小規模事業でも生産性を高め、地域内で生まれた価値を循環させることが求められています。

また、企業が「なぜこの地域で事業をするのか」という存在意義を明確にし、
働く人がその意義を共有できる環境をつくることが、地域経済の持続につながるとしています。
「大分は再生可能エネルギーをはじめ、地域資源を活かせる強みがあります。
地域に根ざした強みを軸に、次の世代が挑戦できる環境を整えることが、これからの発展につながります」とまとめました。

変化を恐れず、変化を設計する

最後に安德さんは、「今は“動く”時代です。変化を恐れるのではなく、変化を設計する。それができれば、人口が減っても地域は持続します」と話しました。
経済を遠いものとしてではなく、自分たちの暮らしや事業の延長線上にあるものとして捉える。
今回のセッションは、マクロとミクロの視点を往復しながら、地域の未来を考えるきっかけとなりました。

参加者との質疑応答の様子